教員・研究紹介

在外研究レポート

オレンジカウンティの陽光の下で

嘉藤 亮 准教授

 2015年4月より1年間、カリフォルニア大学アーバイン校(アメリカ・カリフォルニア州、以下「UCI」)の民主主義研究センターにて客員研究員として在外研究生活を送った。行政法の研究者を自認してはいるが、実効的な権利利益の救済制度について根本から検討しようと思い立ち、やや異なる分野であるものの、アメリカにおける救済と法の調査を主たる目的としつつ、それに付随して多くのことを学ぼうと複数の研究課題を抱えてアメリカ西海岸へと旅立った。私はアメリカ法を主な研究対象としていたが、彼の地への長期の滞在は初めてのことであり、見るものすべてが新鮮に思われ、大変実りのある時間を過ごすことができた。

(1)カリフォルニア大学アーバイン校
 UCIは、バークレー校を旗艦校とする州立大学群の一つをなす大学であり、その名の通り、オレンジカウンティ内のアーバイン市に位置する。1965年にアーバイン市の都市開発計画の一環として誘致されて以降、この街のシンボルともなっている。アルドリッチパークと呼ばれる緑地公園を中心にキャンパスが放射状に連なって配置され、非常に大規模なキャンパスを構成している。前記の学問的関心から、UCIに所属し、選挙法を専門としつつ救済法や司法制度論にも造詣の深いリチャード=ヘイゼン教授のご協力のもと、UCIにおいて調査研究を行った。UCIのロースクールは2009年に開校されたが、未だ外国の研究員を受け入れる体制が整っていなかったこともあり、ヘイゼン教授も所属している社会科学部設置の民主主義研究センターの客員研究員として研究生活をスタートさせることとなった。
 同センターは毎年複数の研究員を受け入れているが、私が在任中はブラジル、トルコ、ルーマニア等様々な地域からの研究者がいた。それぞれの故郷の国情を反映してか、民主化や市民参加をテーマとする者が多く、拙いながらも彼らとの意見交換から考えさせられることは非常に多かった(比較的に民主主義が浸透している日本において、なぜ直接請求制度の利用が不活発なのかと聞かれた際は、暫し返事に窮してしまった…)。
 UCIの顕著な特徴として挙げられるのは、学生の顔ぶれであろう。アジア系の学生が多数派を形成しているという特殊性もあり、実に多様な人々がキャンパス内を往来している。もちろん日本人もまた少ないながらも所属している。特にMBA取得のために学びに来る日本の企業人や社会人は毎年相当数おり、ビジネススクールではそれなりの規模を形成しているようであった。また、UCIは特に医歯薬・理工系が著名であることから、いわゆる理系の日本人研究者の方が毎年この地にやってきている。ふとしたことから、こうした日本人研究者およびMBAの学生の方々のサークルに加えていただくこととなり、定期的に開催される懇親会等へ家族ぐるみで参加させていただいた。私より10歳も若い方が大半であって、遠い異国の地(?)にあって大変勉強意欲が高く、何かと内向き傾向が語られる日本人においても、こうした外に挑戦していく人々がいることを、身をもって知ったのは本当に大きな刺激となった(本学の学生も在学中にもっと積極的に留学を経験してもらいたい。なお、本学もUCIとは留学生の受け入れ協定を結んでいる)。

(2)在外研究の地-オレンジカウンティ地域
 UCIのある地域について触れておこう。アーバイン市は、カリフォルニア州の南部、オレンジカウンティ(日本では「郡」と訳されることもあるが、その実態は日本のそれとは大いに異なる)内にある1シティである。ちょうどロサンゼルスとサンディエゴの中間に位置する土地であって、気候温暖な好地である。この地はアーバイン氏とその一族が経営するアーバインカンパニーの所有する広大な農地であったが、前述の通り、20世紀中盤にはカリフォルニア大学を誘致するために現在のシティの南部にある1000エーカー以上の土地を提供し、大学を取り囲む一体を計画的に開発していった。その後、大学地域を中心に都市が発展し、1971年にはシティが設立されることになる(日本の市町村に相当するシティは、住民が自発的に設立することで設置される。まさに市民が政府を創り出すのである)。以後、同カンパニー主導の開発が続いており、現在では25万人を超える人口を有するようになっている。その意味ではアーバインカンパニーによる街とも言える。
 カリフォルニア州自体そうであるが、オレンジカウンティ、そしてアーバイン市もまた例にもれず多様性に富む地域である。白人とアジア系がともに約45%(2015年当時)であって、特に東アジア系のコミュニティが多く、北中部の企業が集中している地域には日本企業が進出している関係で、駐在員を中心に日本人も非常に多く居住している。日本人の経営する幼稚園や、日本人が多く通う小学校もあり、私のような米国滞在初心者(そして家族)にとっては大変住みよい土地柄であった(英語を使わずとも生活できてしまうことにもなるのだが…)。
 さらに、アーバイン市は治安の良さとあいまって、同市を含むオレンジカウンティ全体がいわゆる「住みたい街」として著名である。他方、高所得階層が居住する地域でもある。郊外型の都市ということもあって、住居地域と商業地域が截然と区分され、その結果、(ロサンゼルス等)それらが混在しやすい低中所得者層が居住するような地域はほとんど見られない。格差社会を実感する地域でもある。

(3)アメリカでの生活-自動車免許取得
 アメリカでの経験について語りたいことは山ほどあるが、ここは自動車免許の取得について述べておきたい。おそらくアメリカにおいて最も市民に身近な行政機関は、DMV(Department of Motor Vehicles)であろう。日本の運転免許試験場に相当する州の機関であるが、運転免許の付与や自動車登録のみならず、IDカードの交付や有権者登録も行い、住民登録制度がないアメリカにおいては市民に最も利用される行政機関の一つとなっている。特に郊外地域に居住する場合、車は生活に欠かせない。最も近い商業地区でも2・3キロ離れているのが一般的である。そうした事情もあり、DMVは運転免許を求める者で毎日ごった返している。一方で、若干マイペースな職員の対応とのギャップには驚かされた(後述する映画『ズートピア』でDMVの職員がナマケモノとされていたのは秀逸である。またそうした場所であるため、特に駐在員にとってDMVにまつわる逸話には事欠かない)。
 免許制度の詳細は州によりまちまちであるが、カリフォルニア州においては、30日以上滞在する場合、国際免許ではなく州の免許が必要となる。筆記試験は多言語対応で日本語での受験も可能である(若干日本語がこなれていないところもあるが)。その後の実技試験も無事合格したが、いつまでたっても免許証が送付されなかった。2か月後に電話・メール等で照会したところ、書類に不備があり、手続が止まっているとのことであった。手続上の不備については当然通知等がなされるものと思っていた私にとって、こうした対応は非常に困惑させられたが、むしろそれは日本的な考え方だったのかもしれない。権利は適時に行使すべきであり、こちらからアクションを起こす必要があるのだ。

(4)アメリカ社会…そしてこれから
 私が滞在していた当時(2015年)は、警察官による(主に黒人に対する)過剰な暴力行為が非常に注目されていて、日本においても大きく報じられていたようである。また、アカデミー賞の候補者に黒人俳優がノミネートされていないことも問題視され、未だ人種の問題がアメリカ社会に大きな影を投げかけていることを改めて認識させられた。加えて、各地で勃発するテロ行為への敵意から、ムスリムが不当な扱いを受けることも報道されていた。
 カリフォルニア州は政治的にはリベラルであったことも起因してか、アメリカの大統領選挙については、後の大統領トランプ氏に関してあくまで共和党の一候補者でしかなく、その指示基盤も脆弱のように受け止められていた。翌年の状況を見るに、西海岸の上述のような地域に居住していた私には、アメリカが現在、真に抱えている問題に直面することがなかったことを痛感した。この点については、自身の不明を恥入るばかりである。
 他方で、実に様々な人種からなるこの地では、多くの事柄が社会的・経済的・文化的に融合され、多様性が生み出すアメリカの活力を垣間見ることもできた。上述の問題も、それとして問題とする動きがあるところに、彼の地の社会におけるある意味での自浄作用が機能しているとみることも可能であろう。2016年度に日本でも公開されたディズニー映画『ズートピア』は、(ネタバレを回避する限りでお話しすれば)多様性を許容し、人種間の壁を超えた融和を謳ったものである。動物たちの配役、そして主人公の職業は見るにそれは明らかである。こうした映画が作成された背景にはまさに以上のような問題が意識されており、他方でそれへの解決策を提示するもの象徴的な作品であるように思われる。今後もこうした背景をも念頭に、彼の国の動向に注目していきたいし、私自身も、こうした経験を踏まえて今後のあるべき社会、そして制度について検討を重ねていきたい。

 神奈川大学に来て約4年が経過し、自分の中の核となるべきものを模索していた時期に、こうした多くの刺激を得、自身を顧みる時を過ごせたことは大いなる財産となった。多忙な中、快く送り出してくださった神奈川大学の関係者各位に改めて心からの謝意を記したい。

アーバイン校

大学中央に位置するアルドリッチパーク。公園と呼ぶには高大すぎる緑地。

ニューポートビーチ

アーバインの南隣にあるニューポートビーチ。海外ドラマ『OC』の舞台ともなった。高級住宅地でもあるとともに、ほぼ一年中、海水浴客で賑う。

自然公園

アーバイン市は南北に連なる大規模な自然保護区を有する。それぞれの丘陵(というより荒地)に散歩道が設置され、運動する場所には事欠かない。

高速道路

車社会のアメリカでは網の目のように高速道路が走っている(もちろん無料)。しかし、道路はほとんどがコンクリート造りで、飛び石で車体が傷つくことも稀ではない。

タナカ・ファームズ

アーバイン市において1940年より日系三世のタナカ氏が始めた農場。季節の作物が試食できるツアーは行列ができるほどの人気。

ページトップに戻る