教員・研究紹介

在外研究レポート

研究雑感in ドイツ・バイロイト大学

野澤 充 准教授

神奈川大学法学部には刑法序説という刑法入門科目がある。1年生の前期に配当されており、受講者の大多数が、最初の授業の段階で、大学に入学してまだ1カ月も経っていない学生である。その授業の1回目のガイダンス的授業において、毎年私が話す内容がある。

それは「アクティブに学びなさい」ということである。

高校までの授業は、大学受験等のために、言わば受身的に知識を飲みこんでいくような側面が強いかと思われる。しかし大学においては異なる。大学における4年間は、社会に出るための準備期間として、自らがどのような形での「社会人」になるのかを自ら考え、選択し、進んでいく時期なのである。「社会人(大人)」として、自分がどうなりたいのかを考えて、そのために必要なことを学び、行動する。これらは全て自分自身のことである以上、「受け身」で済まされることのできないものである。アクティブに、能動的に行動する必要がある。高校までの学習の感覚とのズレを、早い段階で自覚してほしくて、このような話をする。

この話を今ここでしたのは、その言葉の意味を強く感じる環境にいるからである。私は現在、ドイツのバイロイト大学に在外研究中である。
もちろん一概には言えないであろうが、ドイツにおける学生と、日本における学生の違いは、なんといってもその「アクティブさ」にあるように思われる。
授業では、200人ぐらいの教室がいっぱいになり、最後の授業まで、前方の席も埋まるほどに学生が出席する。そのぐらいの大講義の授業中であっても、学生は手を挙げて質問し、それに対して教員はきちんと回答する。さながら事実上200人ぐらいの「ゼミ」のようなものである。
日本では大講義での同様の授業は、およそ不可能であるといえる。授業の進行が遅くなり、学生からも不満が出てしまうだろう。日本の大講義授業の位置づけ上、これはいたしかたのないところではある。
そして何より、教員が問いかけても、学生が授業中にそれに対して積極的な反応をすること自体が難しいのではないかと思う。ゼミなどの小集団教育ですらなかなかそうはいかないのに、講義科目ではなおさらそうであろう。
だが、こちらでは十分そのやり方で大講義授業も成り立っている。自ら考えながら授業に臨むことが求められているのである。授業が遅れても、それほど気にしない。授業でしなかった部分の勉強が必要なら、自分で勉強すればいい。それだけのことなのだ。
実際、バイロイト大学法経学部図書館の座席は、夏セメスター開講時期の、昼の最も人の多い時間は、空いている座席がまず見つからない。法経学部図書館自体も、夏セメスターの時期は、なんと夜12時まで(!)開館していた。9月になって、10月から冬セメスターが始まる直前の休みの期間には、さすがに閉館時間が早まるかと思いきや、「10月末日まで月曜から金曜の閉館時間を夜1時まで(!!!)にします」という張り紙があって、本当に驚いた(ちなみに土曜は夜12時まで、日曜も夜10時まで開いていた)。これは、ちょうどその時期にドイツの司法試験が行われる、という事情によるものであるが、それにしても、ここまでの大学側のサポートがあり、そして実際、結構残って頑張っている学生もよく見られるのは、さすがというべきである。

ここに、まさに「アクティブに学ぶ」学生の姿がある、と感じるのである。「誰かが教えてくれる」のを待つのではなく、「自分のなりたいもののために(自分の目的のために)」「自分の頭で考えて」「自分で行動する」人の姿である。

さて。他人に学ぶことの意味を示唆する人間が、自分が学ぶ際にその意味を踏まえない行動をとることは許されない。私自身はアクティブに学んでいる(つもりである)。ただ、その成果が十分に現れている段階であるとはまだ言い難いように感じる。「時間がある」ように見えても、思いのほか、それ以上に「時間ができたらやろうと思っていたこと」が一気に押し寄せ、また当初考えていたテーマ(「行為による悔悟」規定の研究)以外にも、研究計画書の関係で、同時進行で関連する法制度(とくにドイツの新しい「王冠証人」規定および日本の「自首」規定)の比較をやる必要が出てきて、やるべき仕事量が増えているからである。現段階で完成まで至った成果と言えば、バイロイト刑務所を施設見学し、その見学報告書を完成させたことと、ドイツの王冠証人規定に関する導入部的論考を書いたこと(いずれも「神奈川法学」に掲載予定)ぐらいといえる。

だがこういう場合には忍耐が必要で、もう少し続けることが重要である。それにより、気づけば何らかの成果が出ていることもある。「もう少し頑張って、何とか成果を出して帰ります」、と、「近代刑法学の父」ことフォイエルバッハの墓前に誓うのであった。

(2010年11月17日記)

ドイツ・フランクフルト市内にあるフォイエルバッハの墓

ドイツ・フランクフルト市内に
あるフォイエルバッハの墓

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